稀 有な目利きとして、常に探求を怠らずに前進を遂げ、食とワインにも情熱を傾けるピエール・チェン氏にとって、食とワインのマリアージュの最大の魅力は、やはり友人や家族と楽しみながら悦びを分かち合えることでしょうか。
当然ワインに関する知識は研究と調査の賜物といえるものですが、ボトルを開け、ワインと合う料理を組み合わせるプロセスは、熟慮と周到な準備を重ねたワインへの情熱の集大成といえるでしょう。ご馳走とワインが並ぶテーブルをピエール・チェン氏と囲むのは、冒険であり特権でもあるのです。
素晴らしいワインを最高の料理と組み合わせるとき、フロンティアを越えることに魅了されます。なぜなら各国の郷土料理が世界最高峰のワインと並べられるとき、人々は「涅槃」の境地に達するからです。ピエール・チェン氏はアジアの食材と年代物のワインを組み合わせることもありますが、ワイン醸造学とガストロノミーに対する彼の生涯の愛と敬意は、「美食」という芸術を完璧の極みへと導いたフランスにむけられています。
ピエール・チェン氏が所有するセラーにはボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ローヌの名だたるワインが、ワイン生産者が羨むであろうほどの種類と数を取り揃えて貯蔵されています。そしてフランスのみならず、イタリア、スペイン、その他の最も名高いエステートをくまなく踏査する洗練された美食家の、真に自由で冒険的な側面をも目の当たりにすることになります。
まさにオリンピアンコレクションといったところでしょうか。ずらりと並ぶビンテージワインと広大なブドウ畑は息をのむほどに圧巻な光景ですが、その甲斐あって彼は最上の悦びと発見に満ちた料理をつくることができるのです。台湾の自宅にいようと、パリで最も評判の高いレストランのテーブルを囲んでいようとも、彼は互いの引き立て役にもなれば、心を虜にする存在にもなる香りと風味を楽しみたいと思っています。
フランス・イタリアから、日本・台湾に至る世界最高のシェフやワイン醸造家のことが、この本には集約されています。本書では、ひとりの美食家の双方の芸術の域に達する技術にかけるそのひたむきな姿勢が垣間見えるほか、唯一無二のワインをグラスに注ぎ、材料調達にも調理そのものにもこだわった食事を口にしたときどんな奇跡の瞬間が待ち構えているかといったことが描かれています。本書は、素晴らしい料理とワインを影から支える才能あふれる人々へのオマージュであり、双方の技術に秀でた人々に最大限の称賛を送るある美食家への敬意を表した書籍でもあります。
Image: Still Life Corton Charlemagne Grand-Cru. ©Vincent Rougeau